金陵
横浜・中華街の関帝廟通りに建つ炭焼きの名店『金陵』です。
開高健も絶賛する北京ダックや豚の腸詰めの他にも、鴨や皮付焼豚、モツ類なども絶品です。
金陵は1984年に宮脇さんの設計で中華街大通りに建てられましたが、2007年に閉店し建物は解体。その後、関帝廟通りの売店だったところを改装し営業を続けていましたが再開発にからみ今回の場所に移転・新築となりました。
それで、宮脇さんの門下生だった私のところに設計依頼がきたわけです。
敷地は間口4.4m×奥行き15mの細長い形状。そこに巾4mの建物を建てるわけですから隣地までは左右ともに20㎝。
1階が厨房と売店。2階にレストラン。3階が居住スペース。もうなにをやってもギリギリです。さらにこの狭さの中、住居用のエレベーターとお店用のダムウェイター(料理を上げ下げするリフト)が求められました。
宮脇イズムを継承すべく、コンクリート打放しと赤いサッシュ。内部には木を多用していますが、ファサードは銅板貼り。新たな金陵のはじまりです。
2階客席。床はカリン材のヘリンボーン貼り。壁は6種類の材料を厚みも巾も違えランダム貼りに。
カウンターはコーリアンの天板にブラックチェリー。テーブルは宮脇事務所で繰り返し使われてきた米松の集成材。
椅子はすべてウィンザーチェア。アーコール、FDB、柏木工のモノをちりばめました。
手摺のメッシュは真鍮。テーブルを照らす照明器具はフリッツハンセンのオリエントコッパー。外壁に合わせ銅製の器具を選んでいます。
1階売店。床はスクラッチタイル。以前の建物でも滑りにくいタイルを使用していましたが、油煙でムーンウォークができる程つるつるになっていました。今回はより粗い国代耐火工業所の粗削タイルを使用。
コの字型カウンターはステンレスとブラックチェリー材で構成。切る所、量る所、レジ台と用途ごとにカウンターの高さを変えてあります。
また、床は水洗いをするので巾木はステンレスとしています。
入口近くの床に置いてあるのは、地の神さまを祀る祭壇です。
肉を吊すバーもオリジナルです
階段途中にある飾り棚
西日が銅板に反射し壁を染めます
手摺詳細
中華街にはデザインコードがあり、建物内部をよく見えるようにとか、派手な外観や色使いで人目を惹くようなモノが推奨されています。普段の住宅設計ではあり得ない話しです・笑
夕暮れ時、看板の照明が灯る頃、昼間とはまた違った猥雑な雰囲気が満ち満ちてゆきます。そんな時間を2階の客席から眺めるのは楽しいひとときです。
金陵の看板は正面が獅子。今回の新築に合わせ新たにデザインされたモノです。
袖看板の文字は「焼味 滷味」 滷味とは煮込み料理のことらしいです。
関帝廟通りに面する主寝室と、反対側に位置する寝室。両者の中間に挟まれたキッチン・浴室・トイレなどの水廻り。それにエレベーターと階段が3階のすべてであり、玄関以外の住居部分が詰まっています。食卓を置けるようなスペースもくつろぐソファも存在しません。
しかし究極に狭いからこそ、綿密な計画が必要であり、光と風を計算し、家具を作り込みます。キッチンのワイドは120㎝、食器棚の奥行きは最小15㎝です。
それぞれの寝室にはトップライトを設け、ドア上部に通風確保のための欄間を作り、ドアを閉じた状態でも南北通風を可能にしています。