蛍光灯禁止令

ボス宮脇は蛍光灯が嫌いでした。ですから数少ない例外を除いて蛍光灯が使われたことはありません。住宅なら尚更です。入所まもない新人スタッフが住宅の照明器具選定でたしなめられているのを目撃したことがあります。
「蛍光灯使用禁止令を知らないのかね、君ィ」


宮脇檀建築研究室に住宅依頼でくる方々のほとんどは、ミヤワキデザイン、ミヤワキイズムに憧れてきていましたから「電球の方が落ちつきますよ」「モノがきれいに見えますよ」と云えば、誰もが納得してくれたものです。
しかし、独立後はそうもいきません。私たちも電球をお勧めしますが、でも蛍光灯がいいんです。と云われれば、わかりましたと答えるしかありません。結局は好みですし、相手を納得させられるだけの力量がまだ無いのだということです。
玄関扉の外開き同様、日本ではまだまだ蛍光灯主体の家庭が多いようです。ヤコブセンの椅子を置くような家でも、クラシックやジャズを愛する人でも、リビングには天井にへばりついた蛍光灯がひとつ。なぜこれほどまでに日本人は蛍光灯が好きなのでしょう?私は敗戦が原因だと信じてます。
第二次世界大戦の戦中戦後に味わった「暗さ」から脱却することが「明るい未来」という概念と結びついていったのだと思っています。もちろん私自身は戦後の「暗さ」を体験していませんが、平等・経済成長・勤勉・豊かさ・希望、といったキーワードと結びついている気がしてならないのです。そのような家で育った子がさして疑問も持たずにまた蛍光灯の家庭を築くのではないかと。


蛍光灯は均一的に明るく、影を作らないので、オフィスなど作業効率を重視するところでは有効です。しかし住宅は基本的に「安らぐ」場所ですから蛍光灯は不向きと思えます。
暖炉の火やキャンプでの焚き火が嫌いな人は少ないでしょう。炎は安らぎやくつろぎを与えてくれます。それは遠く原始的な生活を負っていた時代の名残なのかもしれません。そして炎に近いあかりが白熱灯のあかりなのです。
逆に蛍光灯のひかりは刺々しく、あかりと呼ぶには少々抵抗があります。
出張で安いビジネスホテルに泊まり、夜部屋に戻って電灯をつけた瞬間、白々しい光で眼が痛くなったり、さっきまでの気分が壊れてしまったりという経験が私にはあります。家でスーツを着ないように、あかりにもオンとオフの切り替えは必要だと思います。


電球はコントロールし易いというのも利点だと思います。
電球のあかりは点光源に近いので方向性を持っています。つまり明るい所と暗い所が明確になり陰影が生まれます。これを和らげるには一度壁にひかりをぶつけるなどして拡散させればやわらかい印象になります。逆にわざと陰影をつけたい時にはスポットライトなどを使用しますが、やり過ぎると店舗のようになってしまうので注意が必要です。
調光器を使ってあかりの強弱をつけられるのも電球ならではです。リビングダイニングに置かれた食卓で夕食を摂る時とその後ソファに移動してくつろぐ時ではあかりの強さも変化させたいところ。単純な電灯の入り切りだけでなく、ボワっとしたあかりが部屋に奥行きを与えてくれます。これらはひかりの方向性を持たない蛍光灯ではできないことです。


「でも電球は電気代が高いんでしょ?」
よく受ける質問ですが、イニシャルコストは蛍光灯の方が圧倒的に高く、トータルで考えれば電球の方が安いという結果もあるくらいです。
それに家庭における電灯代はそれほどのパーセンテージを占めていません。約15~16%と云われてます。
今年の7月は涼しく8月が異常に暑かったため、我が事務所の8月の電気代は7月の倍でした。電灯その他の使用頻度はほぼ一定ですから、エアコンの使用が電気代を押し上げているのは明白です。


「ではCO2は?」
どなたかの声が聞こえてきそうです。
私もこの春、新宿御苑で行われた『ロハスデザイン大賞2007』で初めて知りましたが、白熱灯のCO2排出量は蛍光灯の6倍とのことです。ちょっと気になったので環境省に詳しい数字を教えてもらいました。
1990年製の白熱灯57W 46.7kg/年間
2006年製の蛍光灯10W  8.2kg/年間
46.7÷8.2=5.6951=約6倍
ワット数が5.7倍なので消費電力が5.7倍。よってCO2の排出量も5.7倍ということなのでしょう。
しかし白熱灯60W相当の蛍光灯は13Wとするのが一般的で、さらに最近の白熱灯は54Wで60W相当の明るさを実現しています。ですから現状に沿った比較をするならば、
54÷13=4.1538=約4倍とすべきではないかと思ってしまいます。
もちろん私もCO2の削減には賛成ですし、上記の仮定が正しいとしても4倍の差があることにかわりありません。
チーム・マイナス6%のなかに「私のチャレンジ宣言」なるものがあり、CO2削減の方法とその量が示されています。買い物のマイバッグや自動車の運転の仕方など、すでに身についているものやすぐに始められそうなものもあります。
白熱灯を使い続けるかわりに他の方法を実践するということでお許し願えないでしょうか。

 

 

 

Anecdote of Architecture