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水廻りはクラシックがお好き?

日本の伝統的な住宅には「陽と陰」「表と裏」の区別がありました。戦後もその影響を引きずっていて、ほとんど使われない応接間が東南の角部屋にあるのに対しキッチンや浴室が暗い北側に集まっている家で育った方も結構いるのではないでしょうか。


女性の社会的進出や発言が大きくなるにつれ、キッチンだけは表舞台に出てくるようになりましたが、むしろ、ダイニングキッチン化が進みひと続きの大きな部屋の一角にキッチンがあるという姿が多い気がします。

ですから、大きなDKあるいはLDKのなかでは一番条件の悪い所に追いやられているという感は拭えません。

「作る」という行為が「裏方」であり、現代もなお軽んじられているということなのでしょうか。


Panasonicの汐留ショールームやさいたまショールームで月1回ほど無料の相談会に応じています。そこでは、土地を購入する前の相談から「自由設計」と謳ってるのに全然自由にならない、あるいは、現場が始まったもののいくつもの不安があるといった、様々な質問、相談が寄せられます。


なかでも多いのはセカンドオピニオンを求めてくる方です。

住宅メーカーや地元の工務店にお願いしてプランが固まったが、ほんとうにこのプランでいいのか?専門家から見てどう思うか?といったことです。
いろいろな選択肢を経て、現在お願いしているメーカーや工務店に至ったわけですから、最後まで信用するのが本筋だとは思いますが、そう云ってしまえば元も子もありません。ある程度生活スタイルなど聞きながら、できるだけポジティブに答えるようにしてますが、なかには騙されてるようなとんでもないプランを持ってくる方もいらっしゃいます。


住宅メーカーや工務店のプランを見ていていつも思うことはクラシックだなということです。敷地の大きさや家族構成が違っても、ほとんどの場合、北側にキッチンを含めた水廻りが集中しています。

前述のように、大抵キッチンはダイニングやリビングと繋がっていて流行の対面式が多いですから視覚的な拡がりという点については問題がないように見えますが、やはり端っこに追いやられてる感はあります。


浴室や洗面室に至ってはあまった所に置かれてるといった感じでしょうか。残念ながらそこに意志や必然があるようには感じられません。


私自身は風呂が大好きです。ゆっくりと湯に浸かるのはもちろん、気分転換や汗を流すだけのシャワーも苦になりません。そんな私ですからプランを考えていても、つい浴室を条件のよいところに持ってきてしまいます。


「私だったら陽を浴びながら入りたいので、この中庭に面した所に浴室をもってきますけどね・・」
「いや、実はわたしも風呂好きで・・。それいいですな」


私の言葉にレスポンスよく反応なさる方は結構いらっしゃいます。
温泉大国の日本ですから当然とも云えますが、こと自分の家になると自由な発想ができないというか、保守的になるというか・・。

あるいは、相談相手がクラシックにもっていってしまうのかもしれませんね。その方がやり慣れていて簡単ですから。


浴室は単に汚れを落とすところではなくリラックスする場所なのですから、屋上に風呂がある、湯殿だけ離れになっている、あるいは浴室が家の中心にあるなど、もっと好き勝手な発想を相手にぶつけて構わないと思います。


水廻り、特に浴室を条件のよいところに持ってくるのは家にとってもよいことだと云えます。最も湿気を出す場所が陽当たりの悪い北側では構造材にとってもいいはずがありません。築数十年の家を解体してみると、決まって浴室廻りの土台や梁が腐ってるのを眼にします。

湿気対策は乾燥させるに限りますが、それには一気に抜くことのできる換気と陽当たりです。換気扇など補助にしかなりません。


図面は「秋草の庭」で有名な堀口捨己の『岡田邸』。なんと1934年の作品です。全体の配置には時代を感じさせるものがありますが、独立した浴室が際立っています。

Anecdote of Architecture

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