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不精者の料理

西荻のアパートメントで主夫をはじめた頃は来客が多かった。いまも少ない方ではないと思うが、当時はまだチビが生まれておらず、近くに住む友人が急にきたり、わざわざ電車に乗ってまでくる欠食美女がいたり、あるいは7~8人の仲間とパーティをしたり・・。相棒の友人30人ぐらいが押し寄せてきたこともあった。


そんな折々、飲物は日本酒よりもワインの方が多く合わせる料理も西欧風がよいのだが、だからといって急に舌を噛みそうな名まえの料理や複雑なソースなど作れるはずもない。普段から作っている簡単簡素な不精者の料理とでも呼ぶべきものがほとんどで、手のかかる料理は1~2品である。


で、その不精者の料理の筆頭が「ポテト・チーズ」と「マッシュルーム・パセリ」である。


ポテト・チーズは馬鈴薯の皮を剥いて厚さ5~7ミリくらいにスライスする。こいつをオリーブオイルをひいたフライパンにできるだけ重ならないように敷き並べ、かるく塩、胡椒してからとけるタイプのナチュラルチーズをパラパラと少し多めにかけて、蓋をするだけ。火は最初から最後までとろ火。好みに応じて、にんにくのスライスを入れてもグッド。

10~15分で出来上がるのではないだろうか。耐熱ガラスの蓋が蒸気で曇り、水滴が表面を流れ落ちる筋の向こうに、完全にとけたチーズが見えるようだったら出来上がり。底の方がきつね色に色づき、全体が一体化してることだろう。皿にすべらせ、パセリかパプリカで色を添えれば、立派な料理に見える。


一方、マッシュルーム・パセリもこれに劣らず簡単。こちらはソースパンか極小の鍋にたっぷりのオリーブオイルを注ぎ、にんにくを潰してから荒みじんに切り、鍋に入れる。鍋に入れてから火をつける。弱火。決して熱々の油の中に入れてはいけない。真っ黒焦げになってしまうから。ついでに、オイルもエキストラ・バージンではいけない。普通のピュアオイルの方がいい。EX・バージンは火を使わないサラダや料理の仕上げ等に向いているのであって、クツクツしたりパチパチ焼いたりする時には、ピュアオイルの方がうまい。


マッシュルームは石突きを切り落とし縦に半分か1/4に。ホワイトでもブラウンでもかまわないが、仕上がりの色がきれいなので、わたしはホワイトの丸々としたやつを好んで使っている。パセリは葉も茎もみじん切りしたあと、いっしょくたんに鍋の中へ。順番とか割合を気にしたことはないが、ほぼ同量のボリュウムだろうか。はじめソースパンから顔を出し、納まりきってなかったマッシュルームもパセリも、時間とともにしんなりとし、オリーブオイルの海の中にひたひたと泳ぐようになる。こちらも盛りつける前にかるく塩、胡椒をし、バケットか何かと一緒に供すればそれらしい。


ポテト・チーズはボス宮脇の賄いをしていた郡ちゃんに習ったもので、マッシュルーム・パセリは新宿のスペイン料理の店で知ったもの。だからこちらには正式な名まえもあるだろうし、もっと複雑な裏ワザがあるのかもしれないが、自己流で充分おいしいので、それ以上の研究はしていない。
どちらも簡単で手早くでき、しかも放っておいて問題なく、仕上がり加減も焦げ付かせなければ多少のタイム・ラグは許容してくれるところが嬉しい。

まさに不精者のための料理なのである。

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