蒸し会
今年も天候に恵まれて蒸し会は上々だった。蒸し会とは、普通のBBQでは飽き足らない宮脇研究室OBが中心になって 河原にでかい竈を持ち込み、なんでもかんでも蒸して食べようというものだ。
1998年から始まり今年で8回目になる。
焼き物に比べて蒸し物は普段から作る機会が圧倒的に少ないし、種類もたいして思い浮かばないが、人が集まればそれなりに様々なものが揃うものである。
下に書いてあるのは1999年第2回の時のメニュウで、この他、食べれなかったものに鶏の香草詰めや里芋馬鈴薯をはじめとする野菜類があった。
・川越のざる豆腐
・小龍包
・肉まん
・ちまき
・鱸/ナンプラー,青唐辛子,パクチー
・蛤/ナンプラー,青唐辛子,パクチー,紹興酒
・焼売
・ニラ饅頭
・鯛かぶと
・ムール貝/白ワイン
・クスクス/ラム、かぼちゃ、人参、じゃが芋
・栗おこわ
・野菜/とうもろこし、さつまいも
11月中旬だというのに日中はぽかぽかと暖かく竈やタープの設営をしているだけで汗ばんでくる。幼稚園に通う先輩の子供たちは上半身裸になって、走り回ったりサッカーボールを追っかけたりしている。なかなか元気があってよろしい、などと眺めていると、走り疲れてタープの下に戻ってきたひとりが云った。
「エアコンほしいな」
午後2時過ぎ、腹ペコの我々は最初の一品が出来上がるまで待てず、川越のざる豆腐とモエ・シャンドンでいつの間にか始まった。あとはもう、蒸して蒸して食べて呑んで‥‥。
《接待する側される側》を嫌ったボス宮脇の教えのとおり、喋りながら食べながら、自然に皆なにかの作業をしている。焼売の肉詰めをする者、竈に薪をくべる者、蒸し加減をみる者、運ぶ者。妊娠八ヶ月の女性がひとりいて、彼女だけが定位置をほとんど動かないほかは、全員立ったり坐ったり、サービスしたりされたりの繰り返し。わたしは主に竈の近くで呑んでいたが、そろそろかな?と木の蓋を上げた瞬間のあの蒸気がふわっと溢れ、その向こうにつやつやヌラヌラした食材を見るのがたまらなくいい。
魚介類は主として、ナンプラー、青唐辛子、パクチーとその時呑んでいるアルコール飲料で蒸し上げる。これが実に美味い。おそらく好天のアウトドアということを差し引いても、とびきり美味いことに代わりはないだろう。かれらの身が旨いことはもちろんなのだが、かれらを載せていた器のなかでひたひたとしている汁がなんともいえない芳香を辺り一面に放っている。皆食べ終わった貝殻をスプーン代わりに、すくっては呑みすくっては呑みしている。
「あぁ、白いごはんがあったらなぁー」
誰かの切ない声が聞こえてくる。
蒸し会のルールはただひとつ。蒸せる食材または飲物を一品持ち寄ること。
小籠包の皮まで自家製の者からどこかで買い求めた冷凍食品まで様々だ。
我が家は去年にひきつづき焼売と栗おこわを担当した。毎年、相棒のばあちゃんが丹波の極上の栗と小豆を送ってくれるので、材料だけは申し分ない。しかし手の遅い我が家のこと。栗剥きは時間がかかるので1ヶ月も前から少しづつ剥いては冷凍庫に保存してゆく。小豆も去年は生のまま持っていって、ちょっと硬めだったので、今年は下ゆでしたものを持っていく。
焼売の方も去年よりグレードアップ。開口健の本を読んでいたら、焼売をうまくつくるための三種の神器というのがあって、豚の背脂と干し貝柱それに椎茸ということだった。これを入れるのと入れないのでは雲泥の差だというので試してみたのだ。背脂は手に入らなかったので諦めたが、豚ひきに炒めた玉葱を少々、それに二晩かけて水からもどした貝柱と椎茸。勘違いして椎茸まで干したものを使ってしまったが、たしかに手間暇かけただけの差はある。
味に奥行きと深みが加わり、ぐっと大人の焼売になった。