アルマニャック
先日、友人の結婚式に参列した。式が終わり披露宴が始まるまでの間、会場の手前に設けられたゆったりめのウエイティングバーでわたしはなにを呑もうか考えていた。女性たちの多くはノンアルコールドリンクを、男たちはビールが多いようだった。他に水割りやキールもあったが、呑んでいる者はほとんどいなかった。
キールがあるなら白ワインを出してもらえないかとバーテンダーに頼んだが、ワインは披露宴が始まってからだと断られた。
なにも呑まずに壁際に立っていると別のバーテンダーが透明の液体を勧めてきた。
「焼酎いかがですか」
ちょっとびっくりした。いや、充分にびっくりした。
ここは九州でも沖縄でもない。東京青山の、それも1等地だ。昨今の焼酎ブームは知ってはいたが、ビール同様ほとんど呑まないので、これほどポピュラーになっているとは想像していなかったのだ。
披露宴が終わり、2次会が終わり、気がつくと3次会が終わっていた。実は披露宴だけで帰ろうと思っていた。顔見知りは少なく、披露宴も友人席ではなく主賓席だった。しかし間近で友人の挨拶や表情を見てるうち、やはりきょう一日お祝いをしたい、すべきだと思うように心が変化したのだった。
2次会で白ワインを4~5グラス、3次会でボンベイサファイアを2ショット呑んだが祝福モードが静まることはなかった。そこでひとり4次会会場を探し求め外苑前からアトリエのある神宮前へ向かって歩きだした。
日本ではあまり食後酒を呑む習慣がないのかパーティー会場へ行っても甘いカクテルやブランデーを用意してることは稀のようである。
わたしはといえば、それらがないとむしろ落ち着かない性分である。先のボンベイサファイアは友人の好きな飲物であり、敬意と祝福を込めてオーダーしたものだ。もちろん食後酒系がなかったからでもあるのだが。
リーデルの特大グラスにほんのちょっぴり注がれて出てきたFrancis Darrozeの'83年物は、やはり今宵の最後に相応しい飲物だと思う。
ブランデーというとコニャックの方がメジャーだが、わたしは好んでアルマニャックと対峙する。バーボンも大好きだがスコッチは呑まない。両者に共通するもの。
粗野だが力強く甘味が強い。
ビンテージ物が多く出回っているところも嬉しい。理由は知らないがコニャックのビンテージ物はほとんど見たことがない。高価と思われがちだがワインに比べればずっと身近である。
生まれ年のワインなんておいそれと買えはしないが、アルマニャックなら数分の1だ。しかもワインは一度抜栓してしまうと基本的には呑みきらなければならないが、ブランデーはその点でも我々の味方だ。
バースイヤーのアルマニャックを購入し、時々ひとりグラスを傾けるというのはどうだろう。わたしのお勧めである。