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バーボングレープフルーツジュース割り​

人類が発明したものの中でも飛行機はトップクラスに入るのだと思う。しかし、初めて乗った時、なんと煩くてなんと退屈なのだろうと思った。乗った飛行機はロサンゼルス行きのボーイング747。時はバブルの3月ということもあり超満員。しかも座席は5連の真ん中。外を眺められるわけでなくスクリーンからも遠い。唯一の楽しみは食事。それにドリンク。タダだと聞いていたので食前酒から遠慮なくいただいた。しかし所詮エコノミークラス。ドライシェリーを呑んでも白ワインを頼んでも感動があるわけでもなく、ただガブ呑みし退屈を紛らしてたのを憶えている。


一度だけ海外出張に行ったことがある。

大断面集成材の製品検査でシアトルを経由してアイダホ州サーモンという田舎町に行った。その時はビジネスクラスだった。料理の質が上がってるのが嬉しかったが、なによりその供され方に驚いた。一品ずつ陶器のプレートに盛られ、しかも冷菜は冷たいプレートにメインのフィレステーキは温かいプレートで運ばれてきた。ワインはリストから選びデザートはサンプルの中から選べた。


「ブランデーいかがですか」


何本かのフルボトルをワゴンに乗せた美人のお姉さまに食後酒を勧められたが、当時はまだ20代、ブランデーを呑む習慣はなかった。


話は三度、10年以上前のことになるが、ボス宮脇の秘書嬢と2人でニューヨークに行ったことがある。この時はプライベートなのでもちろんエコノミー。彼女は買い物。わたしは待ちに待った比較をするために・・。
わたしがまだ一度も海外に出たことがない時に高校時代の友人が教えてくれた。


「NYは東京より10年進んでいてカルカッタは東京より200年遅れている」


なんとなく理解できるような、でもやはりわからないようなこの言葉はわたしの中にずっと残っていた。そしてカルカッタを歩いてから3年と8ヶ月。ようやくニューヨーク行きが実現した。


成田を出発して数時間後には夕食も終わり、あとはひたすら呑み続けるよりほかなかった。わたしは飲物を頼もうと美人のスチュワーデスが通りかかるのを待っていたが、あいにく反対側の通路ばかり通るので仕方なく通りかかった同い歳ぐらいのスチュワードに声を掛けた。


「Wild Turkey and pink grapefruits juice please, with ice」


彼はアメリカ人らしくO.K.と頷き取りに行ってくれた。なにもYes, sir.と云ってほしいわけではないがO.K.はどうかと思うね。アメリカの航空会社にはよくあることだがフレンドリーを履き違えているように思えてならない。

しばらくして彼がミニチュアサイズのボトルと缶ジュースそれに氷の入ったグラスを二つ持って戻ってきた。わたしがグラスはひとつでいいんだと彼に返すと意味がわからないらしくキョトンとしている。

どうやらターキィはわたしが、ジュースは隣の秘書嬢が呑むものだと思っていたらしい。2つともわたしが呑むんだと説明すると、彼は初め驚きの表情を見せたが、次第に笑いが込みあげてきた様子だった。


「ターキィとグレープフルーツジュースを一緒に呑むってか?」


笑いを抑えながら云う彼に、わたしはニコリともせず答えた。
「そうさ」
そして実際にグラスの中で混ぜ合わせひと口呑んでgood!と応えると、彼はついに堪えきれず声を上げて笑い出した。


‥‥この野郎。平静を装っていたが内心穏やかではなかった。周囲の視線が集まってくるのがわかる。


「普通はこんなことしない?」


隣でウケていた秘書嬢が笑いながら彼に訊く。


「しない。しない。こんなの見たことも聞いたこともないよ」


特に悪意のある喋り方でも笑い方でもないけど、もそっとなんとかならんのかな君の態度は・・。


バーボンとグレープフルーツジュースは相性がいい。バーボンの甘味と果物の甘みが解けあい食後酒に向いている。と信じている。

特にピンクグレープフルーツは甘みが強いので非常によく合う。Barで頼むことは滅多にないがアウトドアや友人宅などシェーカーやビターズなどが揃わない環境の時には重宝している。


二本目のターキィはビックなスチュワーデスに頼んだ。当然ジュースは余っているから頼んだのはバーボンだけだ。彼女が無表情にボトルを置いていく時、丁度先のスチュワードが通りかかった。わたしと眼が合いニヤリとすると笑いながら同僚の彼女に早口で説明している。
「こいつバーボンのグレープフルーツ割り呑んでるんだぜ、信じられねーよな」
わたしは呆れて苦笑するよりほかなかった。

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